【報告】基礎教育保障学会 第2回研究大会・フィールドワーク報告

基礎教育保障学会 第2回研究大会におけるフィールドワークについての報告です。

基礎教育保障学会第2回研究大会委員長岩槻知也(京都女子大学)

概要

2017年9月2日、基礎教育保障学会は、第2回研究大会のフィールドワークを、ここ住吉地区において実施しました。おかげさまで、全国各地から50名近くの参加者が集まり、ほんとうに様々なことを学ばせていただきました。まずは、われわれの訪問を快く受け入れていただき、心強いご挨拶をくださった住吉隣保事業推進協会の友永健三理事長、事前の相談から当日の実施に至るまでたいへん丁寧にご対応くださった友永健吾さんを始めとする協会スタッフの皆さま、またご自身の経験に基づく貴重なお話を語ってくださった住吉輪読会の皆さまに、心より御礼を申し上げます。

今回のフィールドワークを主催した基礎教育保障学会という組織は、2016年8月に発足した、たいへん新しい学術団体です。ここでいう「基礎教育」とは、人間が人間として尊厳をもって生きていくために必要となる基礎的な教育のことを指しますが、本学会では、このような基礎教育を、すべての子どもや大人が等しく受けられるような社会の構築をめざして活動を進めています。この学会には、教育や福祉、労働等に関わる多彩な分野の研究者や実践者が加入しているため、「人権のまちづくり」というコンセプトで総合的な取り組みを進めてきた住吉地区に対する関心も非常に高かったように思います。

フィールドワークの内容

さて、当日のフィールドワークの具体的な内容ですが、まず最初に、住吉輪読会の吉田敏彦さん、木本久枝さん、梶川田鶴子さんのお話を伺いました。住吉輪読会は50年以上もの歴史を持つ伝統のある識字学級ですが、このお三人は、その開設当初からの歴史を実際に経験してこられた方々です。「福岡の田川で始まった識字学級を住吉でもやろう」ということで開かれた輪読会に小さな子どもを連れて通ったこと、「部落ってなに?」という子どもの質問に答えるために部落問題の勉強を一所懸命にがんばったこと、「字習(なろ)うて、腹ふくれるんか」という夫に焼酎を飲ませ早く寝かせてから教室に通ったこと、教室の参加者が2人になって悩んでいるときに送られてきた石川一雄さんからの手紙に励まされて教室の仲間を増やそうと決意したことなど、ご自身の経験に基づく、たいへん力のこもったお話ばかりでした。

次に住吉隣保事業推進協会の友永健吾さんから「住吉部落の歴史と人権のまちづくり」というテーマでレクチャーをいただき、3グループに分かれて地区内のフィールドワークを行いました。まずレクチャーでは、友永さんご自身の生い立ちをも含めた自己紹介ののち、住吉地区の概況や2009年に実施された「労働実態調査」の結果が具体的なデータで示されました。その数字をみて、改めて若い世代や女性の失業率の高さ、母子家庭の比率の高さを認識しました。さらに戦後から現在に至る住吉地区のまちづくりの歴史を具体的にわかりやすく跡づけていただいたことで、現在の住吉の取り組みの視野の広さや「自立自闘」「自主解放」の精神の源(みなもと)を知ることができたように思います。その後、協会スタッフの皆さんのご先導のもと、地区内を歩き、住吉の「まちづくり」の実際を体感しました。

印象に残ったこと

「人と人がつながれる居心地のよいまち」をつくるための工夫があちこちにあり、いろんなことを感じたのですが、ここでは紙幅の都合上、1点だけ、特に印象に残っていることをご報告します。

その1点とは「すみよし隣保館寿」の存在です。キッチンもついていて、きれいなガラス張りの、明るく開放的な「近隣交流スペース」は、フィールドワーク当日も、いろんな世代の方々でにぎわっていました。このように、近隣の住民が気軽に立ち寄ってともに時間をすごすことのできる場の存在が「居心地のよいまち」をつくるうえできわめて重要になってくると、そのとき改めて思いました。さらにこの施設は「ここに来ればなんでも相談にのってもらえる」という、タテ割りではないワンストップの生活相談機能をもち、また自治会等の諸団体や地域包括支援センターといった地域の重要な組織・機関の共同の拠点にもなっているということです。社会的な「孤立」や「排除」の問題が地域における大きな課題となっているいま、この「すみよし隣保館寿」のような施設の存在が、部落内外を問わず、ますます求められているように感じました。

さいごに

最後に質疑応答の時間を設けましたが、そこでは、参加者の一人から「若いころに身につけた部落に対する偏見や差別意識をなかなか払拭できない」という率直な思いがストレートに出されました。このフィールドワークに参加して、これまでわだかまっていた部落への感情が、そのまま出たのだと思います。この参加者の発言に対して、まず友永健吾さんから「頭の中だけでそのような差別意識を払拭することは難しいが、部落の人とのいい出会いを重ねながら、いろんな疑問を出し合い、話し合える仲間や場を見つけてほしい。今日もそのような機会の一つだと思う」という主旨のお話があり、それに続けて他の参加者からも、当事者の思いを聞くことの重要性、部落問題について知ることの重要性等が語られました。また住吉輪読会の梶川さんからは「私たちが部落差別をつくったのではないということをわかってほしい、またそのことがわかるような教育をしていかなければならない」「差別の問題は部落問題だけではない。人権という広い視野にたって、人を育てる教育をしていかなければならない」という主旨のお話がありました。終了時間の関係で、議論を打ち切らざるを得なかったのが残念でしたが、このようなテーマについて話し合える場を持てたことは、たいへん意義深かったと思います。年以上も続けられたのはなぜか…それは「何でも話し合える、そして支え合える仲間がいたから」という木本さんの言葉が強く印象に残っています。

参考

公益財団法人住吉隣保事業推進協会 すみりんニュース57号より http://sumiyoshi.or.jp/free/news

 

タイトルとURLをコピーしました