第11回識字・日本語学習研究集会の全体会が、5月31日(土曜日)午後に、堺市立人権ふれあいセンターで開催されました。「識字・日本語学習活動の課題を考える~大阪識字・日本語協議会 課題整理報告書見直し~」と題して、本プロジェクトメンバーである柴原浩嗣さん、上杉孝實さん、教室現場より報告いただきました。
柴原さんからは、「課題整理報告書見直しのためのプロジェクトチームまとめ(概要)」と題して報告があり、検討の背景には、①大阪における国際識字年以後の取り組み、②識字・日本語協議会の始まりの経緯、③2016年の識字・日本語協議会による課題整理の枠組み、④2019年ごろからの差別事象の頻発をふまえた人権の観点の必要性、⑤識字・日本語学習をめぐる状況の変化、といったことがあると示されました。そのうえで、今回の検討では、①理念として「人権」を明確にし、それを取り組みの中で具体化していくことが必要である、②理念として「生活者としての学習者」を明確にし、権利の主体として社会に参加できるための学習が必要である、③識字・日本語学習の課題を検討するうえで、「成人基礎教育」の考え方や概念を念頭に置くことが必要である、④識字・日本語施策を推進するうえで、「識字・日本語センター」が必要である、ことが新たな4つの柱として確認されました。
教室現場からは、「新たな4つの課題の柱を教室から考える」をテーマに、今回の検討で整理された4つの柱について、日ごろの教室活動に引き付けて報告されました。ユネスコによる「学習権宣言」の一節「学習活動はあらゆる教育活動の中心に位置づけられ、人びとを、なりゆきまかせの客体から、自らの歴史をつくる主体にかえてゆくものである」を紹介され、日々の教室活動でこのことが実現できているかを常に問うているとのことでした。2019年の「よみかきこうりゅうかい」で起こった差別事象とその対応をめぐる課題を教室活動に位置づけて取り組まれた人権学習の経緯や、「学習者が主役になっているか?」という観点から活動を検討されていることなど、4つの柱にもとづく具体的な実践が提示されました。
上杉さんには、3つめの柱のキーワードである「成人基礎教育」について説明いただきました。1970年頃から、国際的には「識字」を中心にしながら幅広いリテラシーの取得が求められるようになり、「人間らしい生活を営み、社会に働きかけ得る力の獲得」を目的とした成人基礎教育という概念がひろまっていきました。そこには、「読む・書く・話す・聞く」にくわえて、IT、コミュニケーション、数的処理、人権などにかかわるリテラシーも含まれます。また、成人基礎教育においては、「おとな」である対象者の人生経験や成熟した市民であること、主体性、多様性などをふまえて、学習内容や方法、枠組みを検討する必要があります。日本では、識字・日本語教室、自主夜間中学、公立夜間中学などが成人基礎教育の場となっていますが、それぞれの学習者が多様な選択肢から自身に合った学習の場を選ぶことができるように、各領域を超えた「成人基礎教育」という枠組みが求められます。
以上の3つの報告を受けて、1グループ6~7人で7グループに別れて、「日ごろ取り組んでいることで自己紹介」「今日の話を聞いて思ったこと」について、「人権」「成人基礎教育」をキーワードに、参加者間で話し合いました。その後、各グループで話し合った内容を全体で共有しました。その内容を、下記のとおり整理されました。
「夜中を考えるとき、昼間の学校から考えるのではなく、おとなの学習から考えてはどうか?」「学校で人権教育をすすめるため、識字をテーマにできる人を!」「学習者の生い立ち作文の発表を受けて、何を自分なら返せる?」「夜中の生徒さんがもっている生きる力をどう生かすか?」「さまざまな学びの場が必要になっている。」「夜中の生徒さんに外国からの人がふえている。」「夜中と識字の見学交流」「外国人が増加している。」「いまの夜中では、日本語を学びたい人、高校へ行きたい人など、いろいろな人のニーズに応えることが求められている。」「住吉輪読会のはじまりとその後」「石川一雄さんにはげましの手紙を書いて、逆にはげまされた。」「部落問題をどう教えるか。教える側にどれだけ知識があるか。」「「外国からの人」にもいろんな人がいる。」「夜中が様がわり。1人ひとりの要望にどう応える。」「学校として人権教育にとりくむには?」
今回の全体会の内容をふまえて、2026年2月に、分科会の開催を予定しています。