【報告】識字・日本語連絡会第24回総会

2017年5月27日(土)13時30分からHRCホール(大阪市港区)で開催された、識字・日本語連絡会第24回総会について報告します。
司会:古川正志

主催者あいさつ

森 実 代表幹事
お忙しい中、ありがとうございます。
教育機会確保法は、さまざまな可能性を含みつつ、制定され、動きつつあります。夜間中学校の方たちが60年かけてようやく実現できた法律ということで、ぜひよい方向で活用できるようにしたいと考えています。本日は、「教育機会確保法」が今年度どう動くのか、本日上杉孝實さんの話を伺います。今後どうなるのかをみなさんといっしょに考えていきたいと思います。

来賓紹介

大阪府教育庁市町村教育室地域教育振興課長 大野広
大阪市教育委員会生涯教育部生涯教育担当課長 松村智志
堺市  人権推進課長 松村 由紀

 

 

来賓あいさつ

大阪府教育庁市町村教育室 地域教育長 大野 広
識字・日本語連絡会第24回総会の開催にあたりまして、一言ご挨拶を申し上げます。日ごろから府内各地域で、識字・日本語活動にご尽力されておりますことに、感謝を申し上げます。また、このようにたくさんの皆様のご参加のもと、本総会が開催されることを心からお慶び申し上げます。
大阪府は、大阪府識字施策推進指針(改訂版)を踏まえ、識字施策の推進に努めており、大阪識字・日本語協議会が2016年3月にまとめた『大阪府における識字・日本語学習における課題整理報告書』に基づき、2016年度に新たな施策を展開しました。今年度も、地域別のシステム・コーディネーターを配置して地域の識字・日本語教室のネットワークを強化する取組みと、日本語学習支援者のスキルアップを期した取組みを中心に事業を展開します。また、「教育機会確保法」という法律が成立し、その動きも気になるところで本日は上杉先生のご講演があり、私も楽しみにしています。貴連絡会のますますのご発展とみなさまのご活躍を祈念して、あいさつとさせていただだきます。

議 事

議長に岡田耕治さんを選出

1号議案

2016年度活動報告並びに2017年度活動方針案(提案:森 実 代表幹事)
(1)経過の振り返り
①では、ここ数年いろいろな意味で厳しい時期であったが、おおさか識字・日本語センターの問題や当連絡会に関して、踏みとどまりながら今日まできた。
②では、大阪識字・日本語協議会が集まって「課題整理」を行なってきた。厳しい中であっても今後の方針を模索したのが大きい。
大阪市内でも、大きな変化があった。市民交流センターがすべて閉館し、学習場所の確保が難しくなった。大阪市内の識字学級で連絡会をつくり交渉し、最終的にはたとえ市民交流センターがなくなっても公的施設を確保する約束を取り付け、現在、民間設立隣保館や市立小中学校などで展開している。東大阪市の太平寺中学校問題も布施中学校に夜間学級ができ、不十分ではあるが、学習場所が確保できた。

(2)取り巻く状況(現状の認識)
「教育機会確保法」が制定された。これまで義務教育を終えられなかった人や不登校の人が安心して学べる場を確保する法律で、文部科学省としては、最低でも都道府県に1校は夜間中学校を設置するように言っている。また、昨年度、この法律制定を見据えて、基礎教育保障学会が発足した。教育機会保障法を有効に運用するためには我々の活動が大切で、基礎教育保障学会という学会は、いろいろな学識経験者、教育従事者、支援者、それに学習者が一緒に参加できるように作った学会。第2回の総会を大阪で行うこととなっている。これからどうなっていくか、連絡会としても応援していく。

(3)2017年度の方針
2017年度は次の時代を見るための力を蓄える時期で、5本柱を立てた。

  1. 年間行事を成功させる(総会、よみかきこうりゅうかい、研究集会、基礎教育保障学会)。
  2. 識字・日本語の概念を明確にする(概念整理)。読み書きだけではなく社会参加や社会変革の概念を含むものだと我々は認識しており、単に日本語が使える、読み書きができる、というのが最終目標でないことは、日本語教室も識字教室も同じ。
  3. 国・地方自治体への働きかけ 法制定を受けて国への要望をする。
  4. 地域連絡会を広げ、本連絡会との結びつきを深める。
  5. 2018年度以降の活動模索する時期である。
    幹事会毎月1回、運営会議毎月1回(幹事会の原案を作成する)。世代交代・組織拡大。

(議長 岡田)質問・意見なく、拍手承認。

2号議案

2017年度 役員・加盟団体等一覧(議案書参照)
役員案
代表幹事   森  実
副代表幹事  髙橋 定、岩槻 知也
事務局長   柴田 亨
顧  問   上杉 孝實
加盟団体一覧 個人幹事
(議案書参照)  拍手で承認

新事務局長

柴田亨さんあいさつ
不登校などで教育を受けることができなかった人びとが学び直せる場を設ける「教育機会確保法」ができた。
1989年設立以来、営々として大阪の地で夜間中学や被差別部落の識字学級、識字学校のみなさんと築き上げてきたものが全国的に大きな流れとなっていくと思う。残念ながら厳しい状況の続く大阪、楽観は許されないが、なんとか力を尽くしたい。

総会終了

特別報告

識字・日本語学習を軸とした基礎教育の充実のために-教育機会確保法の制定を受けて-
上杉孝實(基礎教育保障学会 会長)

1.基礎教育とは(1)
基礎教育という概念は、国際的には「子どもの教育」ではない。ちゃんと教育が保障されなかった大人に対する教育(国連を中心に)

  • よみかき、計算(3R’s reading、writing、reckoning)
  • 母語とともに、住んでいるところの言葉を学ぶ(いろんな地域から来た人、住んでいる人、母語(もともとの地域の言葉)とともに、日本の言葉を学ぶことができる。両方の保障が大切。
  • コンピューターの知識・技術(情報格差)
  • コミュニケーション 他者とのやりとり→自分を知り、社会を把握する。社会に働きかける。

2.基礎教育とは(2)

  • 社会、理科、芸術などいろいろな教科
  • 基礎教育を保障するための義務教育
  • 保護者の義務、国の責務、学習者の権利
  • 義務教育の延長 日本の義務教育は最初4年間、その後6年となり、1939年から青年学校が義務教育化したが、ほとんど有名無実。戦後、義務教育が9年間に。学習内容が増えてきた。アメリカでは高校が義務教育となっている州もある。
  • 子どもの頃に学べなかった人にどう保障していくのか?本来、夜間中学校(中学校夜間学級)は子どもを想定して作られている。
  • 夜間中学校 全国で31校(うち大阪府内11校)
  • 自主夜間中学校、識字教室 文字を学ぶだけでない内容
  • 子どもの教育と同じでいいのか? 子どものものを大人に提供するという発想では不十分である。日本の学校制度は基本子ども対象。
  • 大人の学びとしては、生活経験と関連づけて学ぶ。生活の中での学びだから、地域の言葉(生活のための言葉)が身につくこと、文字文化と両方が必要だ。
  • 文字が読めない人びとの「語りの文化」を無視してしまうのは、大きな問題をもたらしてきた。
  • 日本では文字から作られた言葉が多い。
  • お互い同士の学び合い。
  • ユネスコ(ジェルピ):全ての人のための教育だけでなく、全ての人による教育。

3.法律づくりへの努力 ・夜間中学校関係者の努力

  • 日本弁護士連合会の意見表明
  • 夜間中学校等議員連盟

4.教育機会確保法成立前に国の施策

  • 各都道府県に1校以上の夜間中学校
  • 中学校を卒業した人も受け入れ
  • 指導法の調査研究:年齢、国籍、その他の置かれている事情にかかわりなく… 重要な条文
  • 関係民間団体等の意見を聞いて文部科学省が基本方針を作る。
  • 不登校の子どもなどの教育機会の確保等
  • 夜間その他の特別な時間において授業をおこなう学校における就学の機会の提供等。
  • 協議会 就学の機会を提供するための「協議会」ということで、これは学校に関わる協議会である。
    都道府県が学齢を超えたものの就学の機会提供等のための協議会を組織できる。→識字・日本語協議会とは微妙に違う。
  • 中学校卒業検定を受けようとするものに教材の提供、その他の学習の支援のために措置するよう努める。

5.基礎教育保障学会 

  • かなり広範囲な会員属性を想定している。 ・国の基本方針づくりに意見を提出

6.これからの課題

  • 国の基本方針 もっと具体化を
  • 識字・日本語連絡会の取り組みを参考に → 公的責任と自主団体の力の結集
  • 生涯学習としての取り組み、位置づけ

講演会終了後、15分の休憩

グループ討議

●グループA  
<話し合いから>

  • 夜間中学校研究会でも文科省に方針の出るぎりぎりまで申し入れを行ったが、方針は議会 でなく文科省が作るので、より政府寄りのものになっている。
  • 5月27日の大阪での夜間中学校に対する文科省の説明では、今年度中に調査を行うが、それは前回同様、自治体を通じて夜間中学校と識字・日本語教室などについて調べるものであるとのことである。
  • 学習を必要としている人、未識字の状態にある人がどれくらいあるかを把握する調査を求める必要がある。
  • 協議会として、夜間中学校設置自治体等に識字・日本語連絡会を加えたようなものが要るのではないか。
  • 基礎教育の中身を明確にしなければならない。

●グループB
上杉さんのお話の後、5つのグループに分かれて話し合ったが、ここでは左前に集まった人たちのようすを報告する。参加者は、全8人のうち5人が夜間中学校教員、1人が大阪府教委、1人が事務局長(前)、2人が代表幹事であった。はじめに自己紹介をしてもらった後、それぞれの思いなどを出してもらった。
<話し合いから>

  • 5月26日の文部科学省の人を招いての研修では、法律が大阪などの夜間中学校を減らす手助けとならないようにすること、などの確認をした。
  • 今年に入って、それぞれの夜間中学校に形式卒業の人が来るようになった。年齢や経緯も様々。
  • この状況で、夜間中学としては、高校への進路保障をどうするか、一人ひとりに応じた教育内容をいかにつくりだすか、など、課題が広がっていると思うが、どう対応しようとしているか。
  • 確かに、進学という学校的な役割が求められている面と、個々に対応するという柔軟性が求められている。そのいずれも課題だと認識している。
  • この際、新しく入ってきている形式卒業生・不登校経験者などの事例についてレポートを蓄積し、夜間中学自体でどうとりくむべきか、夜間中学以外の形はいかにあるべきか、昼間の学校はいかにするべきか、など問題提起をする活動をしてはどうか。

●グループC
参加者:8名(夜間中学関係者2名、識字・日本語教室ボランティア3名、大阪府・大阪市関係者3名)
<話し合いから>

  • 確保法の存在すら知らなかったが、上杉先生の講演は分かりやすく、内容や状況についての理解が深まった。
  • 夜間中学関係者としては、形式的卒業生の受け入れなど大きな意義があると思うが、同時に、教育内容の充実には制度や予算の裏付けが必要であり、この法をどう使っていくかが課題だ。
  • 貧困や家庭環境など様々な理由で基礎教育を受けられなかった人たちへの救済措置としては意義があるが、競争原理ばかりが強調される昼間の学校教育の矛盾を、夜間中学に押し付けてはならない。
  • 夜間中学では、外国籍や発達障害などを抱えた人など多様な方々が学んでいる。その方々の『学び』への強い思いを大切にしていきたい。

●グループD
夜間中学の教員、行政関係者、元中学校教員、地域の教室ボランティアなど8人の参加者で講演を聴いた感想や今回の法律に対する各自の意見を出し合った。
まず、この2月に施行された「教育機会確保法」が近年、放置できないまでに増え続ける不登校児童・生徒の『不登校対策』として打ち出されてきたことが背景にあることを押さえた上で、つぎのような意見が出された。
<話し合いから>

  • この法律でこれまでの国の教育行政の方針が変わってきたなあ、と感じる。以前だったら長欠の生徒は卒業不認定や原級留置でやむなく学校に行かなくなって、その後に夜間中学の門をたたいた。
  • 中学校を無理やり卒業させられたいわゆる「形式卒業生」が夜中への入学を希望している。
  • 1070年以前、長欠を理由に除籍処分を受けた子どもたちはその後、どうなったのか追跡調査もできていない。今では70歳に近い年齢になっているのでは。
  • この法律はあくまで理念法なので、内実を伴う実効性を持たせるかどうかは私たちの課題。一方で、地方自治体にもかなりの温度差がありクリアーしなければならない壁がいくつもあるのでは。

●グループE
上杉さんのお話の後、最後列のグループでは、次のような話し合いを行った。参加者は、全8人のうち5人がよみかき茶屋、2人がしきじ・にほんご天王寺、1人が夜間中学校に所属していた。最初に自己紹介をしてもらった後、それぞれの思いなどを出してもらった。

  • 上杉さんの「基礎教育」の整理の中では、「住んでいるところのことばを学ぶ」「コミュニケーション」「自分を知る、生活を切りひらく」というところに、自分たちがかかわっている教室の現状がある。しかし、「社会に働きかける」というところまではできていない。
  • それぞれの学びの場では、来られる学習者によって、学ぶ内容も学び方も大きく変わる。学習者ファーストで、学びをつくっていくのが本来だと思う。
  • 上杉さんの話に「おたがいどうしの学びあい」という言葉があったが、学習者から学ぶ、学習者の姿から学ぶという姿勢がボランティアには必要だ。
  • よみかき茶屋として活動してきたことは、今日の上杉さんの話を聴いて、正しかったのだと改めて感じた。特に私たちは「生活経験とつないでの学び」を大切にしてきた。
  • 識字・日本語連絡会の取組やしきじ・にほんご天王寺として行っている活動が、教育機会確保法の誕生や基礎教育保障学会設立の動きと連動していることが分かり、心強く思った。
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